ご無沙汰しております、カントリージェントルマンです。
今回はまた一風変わった視点から、ヴィンテージリングの魅力についてお伝えできればと思っております。
現代においても、そして歴史を振り返ってみても、リングというアクセサリーは様々な役割を果たしています。
ファッションにおける「装飾」はもちろんのこと、カレッジリングは「所属」を表し、シグネットリングは「証明」、マリッジリングは「約束」という意味がそれぞれ付与されています。
今回お伝えするヴィンテージ(アンティーク)リングは、「秘密」をその身に宿した非常に奇異な指輪です。
まだあまり知られていない、ヴィンテージリングに隠された秘密の鍵の物語を、今回はお話しさせていただきます。
世界最古のリング
さて、今回ご紹介するリングは古代ローマ時代のものなのですが、当ブログの慣例に従い(?)大いに脱線をしてまずはそれよりもはるか前の世界最古のリングの歴史から、お話を始めたいと思います。
諸説ありますが、一般的には紀元前3,000年前の古代エジプトのリングが、世界最古のものであるとされています。
Metropolitan Museum of Art , CC0, via Wikimedia Commons
こちらは世界最古ではありませんが、紀元前1850~1750年頃(今からなんと3780年前)の指輪です。
こちらは金のワイヤーとプレート、石はラピスラズリでスカラベと呼ばれる甲虫がデザインとして採用された指輪となっています。
(古代エジプトにおいてリングの石によく使われていた素材は、この他にもターコイズ、アメジストなどがあります。)
ちなみに古代エジプト時代の指輪のデザインには、頻繁に「スカラベ」と呼ばれる甲虫が採用されています。
(スカラベとはいわゆる「フンコロガシ」と呼ばれる虫です。)
古代エジプトにおいて、スカラベは神格化されていました。その理由は主に以下2つとなります。
スカラベが後ろ足で転がす球体(フン)を天体(太陽)の運行に見立てた
スカラベはフンの中に卵を産みつけ、そこから誕生する=無から生まれたと考えられた
事実、これまでにもスカラベのデザインがを施された装飾品が数多く出土しています。
また、彼らがスカラベをどれほど重要な存在であると考えていたかは、スカラベを神格化した神(ケプリ)が存在していたことからも分かります。
(以下の画像の一番右側の椅子に座っている人物がケプリです。驚くことに顔がスカラベになっています。)
Darer101, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
古代エジプトにおける神といえば太陽神ラーが有名ですが、このラーは朝・昼・夜で異なる形態をとると考えられていた時代もあり、
具体的には朝が「ケプリ(ヘプリ)」・昼が「ラー」・夕方が「アトゥム」の姿で現れるとされました。
スカラベはこれ以外にも印章として用いられており、その辺りの詳しいお話しは別記事にてご覧いただけます。
古代ローマの不思議な指輪
それではいよいよ、今回ご紹介したい不思議な指輪をお目にかけたいと思います。
The Portable Antiquities Scheme/ The Trustees of the British Museum, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
The Portable Antiquities Scheme/ The Trustees of the British Museum, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
Photograph by Rama, Wikimedia Commons, Cc-by-sa-2.0-fr, CC BY-SA 2.0 FR, via Wikimedia Commons
いかがでしょうか。
すでにお気づきかと思いますが、このリングには”鍵”が付けられていることがお分かりいただけると思います。
この鍵の多くは鋳造で作られ、銅の合金や鉄など頑丈な素材から製作されていました。(鉄の指輪?と訝しがる方もいらっしゃるかと思いますが、当時は一般的な素材だったようです)
この鍵は指輪として身につけられ、その際おそらく鍵の部分は手のひら側に隠されて着用されていたものと思われます。
それではなぜ、わざわざ手元がかさばるようなデザインのこのリングは誕生したのでしょうか。
それには古代ローマ人の服装にヒントがありました。
古代ローマ人の服「トガ」
古代ローマにおいては、現代のようなTシャツやズボンのような服装はもちろんまだ生まれていませんでした。
彼らは主に「トガ」と呼ばれる大きな一枚の布を、簡素な「トゥニカ」と呼ばれる下着の上に巻き付けていました。
以下がその具体例です。
「この服装が、さっきの鍵付きのリングとなんの関係があるのか」とお考えになるかと思いますが、
この「トガ」と「鍵付きのリング」を結びつけるヒントこそが、「ポケット」なのでした。
ポケットはまだこの時代においては一般的ではありませんでした。そのため家や宝石箱などの貴重品の鍵を安全に所持しておくために、
この鍵付きのリングが開発されたのではないかと考えられています。
シャトレーヌ
その後ポケットが一般的に普及するまでの間、人々はこの「鍵付きリング」はもちろん、腰にベルトやバッグを巻き付けたり、
ベルトに鍵を引っ掛けるキーベルトなるもので貴重品を隠し、持ち歩いていたことがわかっています。
おそらくはその過程で生まれた、女性用の所持品を持ち歩く手段が「シャトレーヌ」です。
Auckland Museum Collections from Auckland, Aotearoa New Zealand, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
使用方法としては、まず最上部の裏に取り付けられたフックをベルトに引っ掛け、
そこから垂らした複数のチェーンに生活必需品などを取り付けることで、所持品を持ち歩いていました。
取り付けられていた品々は、具体的には
ハサミ
耳かき
ピンセット
鉛筆
ノート
チェーンメイルの財布
鏡
手紙に封をするためのワックスホルダー
などでした。(持ち物は時代によって異なります)
このシャトレーヌは古代ローマから使用されていたことがわかっています。
そして時を経るにつれ、このシャトレーヌは単に所持品を持ち歩くための道具としてだけではなく、
豪華絢爛な装飾や所持品などをチェーンに取り付け、裕福さをアピールするために用いられたり、
Burghley House , CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
家政婦は仕事上の必需品を取り付けたり、一家を取り仕切る女性は家中の鍵を取り付けるキーホルダーとして使用したりもしました。
いつの時代も人々は様々なものを生み出し、進化させ続けているのだということを今回も改めて感じ、人間のクリエイティビティの凄さに大変驚きました。
こぼれ話
今回はかなり(ほとんど)脱線ばかりで、肝心の指輪に関するお話が少なく大変申し訳ありません。
本来は文字が刻み込まれた美しい宝石が埋め込まれた、隠し鍵付きシグネットリングや、黄金に輝く隠し鍵付きリングなども発見したのですが、
画像の使用許可が出ないために泣く泣く断念しております。
今回画像を掲載しておりませんが、美しい宝石がセットされた鍵付きシグネットリングに関しましては、ぜひメトロポリタン美術館のSeal Ring with Hidden Keyより、ご覧くださいませ。
今回の素敵な歴史の物語が、皆様の心の琴線に少しでも触れることができれば大変嬉しく思います。
Country Gentleman
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